誤算の舞台裏:マブス転落の真相
こんにちは。長かった2022-23シーズンはナゲッツの優勝で幕を閉じましたね。同じコーチの下、自チームでドラフトした選手を中心に長い年月をかけてついに優勝を果たしたことに素直に感動しました。スモールマーケットのチームでも地道にチームを育て上げればここまでこれるということを教えてくれた、素晴らしいチームでしたね。
さて、そんな夢のような素晴らしいチームを見た後に、クソみたいな現実に引き戻してくれるチームが、我らがダラス・マーベリックスですね。見ている人全てを混乱させ、その混乱のままあっけなく終わってしまった今シーズン。そんなシーズンを時間が経った今、冷静に振り返ってみて、何がいけなかったのか、重箱の隅をつつき過ぎで穴が開くくらいの勢いで精査していきましょう。
※この記事ではレーティングやPPPといったスタッツに関する用語が沢山出てきます。なるべくその意味が分からなくても伝わるように書いてますが、分からないものは是非調べながら見ていただけるとありがたいです。
1章:躍進からのステップバック
ざっくり今シーズンの流れを頭から振り返ってみましょう。CF敗退直後、ほぼタダのような形でロケッツからウッドを獲得しました。この獲得には、ウォリアーズ戦で課題だった以下の2点を解決するための意図があったと思います。
・オフェンス・リバウンドに強い相手に対抗できるサイズの不足
・ハンドラーの個人突破依存のオフェンス
しかし、その代わりにチーム2番手だったブランソンを放出し、キャップに余裕のないマブスにとって貴重だったMLEでマギーを獲得したことから、ガードの穴は解消できないままシーズンを迎えることになりました。
シーズンが始まると、ハンドラーが一枚抜けたことによるドンチッチ頼み過ぎるオフェンスが問題となりました。折角獲得したウッドの出番もなぜか限定的であり、さらに昨季良かったディフェンスの強度も落ちています。シーズン中盤まで勝率5割くらいをふらふらしており、この現状ではだめだと悟った運営陣はカイリーの電撃トレード獲得を決行しました。しかしそれでも成績は上回らないどころかむしろ下がり、最終的にはプレーインにすらカスらないような戦績で、今シーズンが終了しました。
以上が簡単な振り返りです。いやー、いざ文字にしてみるとまあ悲惨ですね。期待値と現実とのギャップという意味では間違いなく歴代でも最低なシーズンだったと思います。
2章: トレードは本当に失敗だったのか?
まずマブスファン以外の人が今シーズンのマブスの失敗について真っ先に挙げる理由として「カイリーがチームにフィットしなかったから」というのがあると思います。まずはこれについて見ていきましょう。カイリーとマブス全体のレーティングを比較して見てみると、
OFFRTG:121.4(115.9)DFFRTG:115.7(116.1)
※カッコ内はマブス全体の数字
となっており、ディフェンスはチーム平均以上、オフェンスに関してはチーム内トップのレーティングで、ここから見るに、失速の原因は彼個人のパフォーマンスの問題ではないといえるでしょう。外野から見るとどうしても、カイリーのトレードとその後の勝率を結び付けて揶揄したくなると思いますが、試合を見ているマブスファンの皆さんならそうではないことが分かるはずです。こうして数字で示すことで、両者の理解の差を埋めることができたら嬉しいです。ではなぜカイリーの数字は悪くないのに、トレード以降の勝率がこんなになってしまったのかについては、後述するのでそれまでお待ちください。
3章:オフェンスでの失敗
3-1:補強を無視した劣化オフェンス
昨シーズンのプレーオフで効果的だったのはハンドラーに相手の弱いディフェンダーをスイッチさせてそこを起点にボコる、マッチアップメイクの部分です。
この試合なんか顕著ですが、ルカのシュートのほとんどはエイトン、キャム・ジョンソンなどの弱いディフェンダーにスイッチさせてからのものです。
しかしそれが成立していたのはルカ・ブランソン・ディンウィディという強力なハンドラーが3人を試合通して2人、もしくは3人同時にコート上に置くことができたからです。さらにその強みも、マブスのスクリーンに対してブリッツしつつ、裏のカバーをドレイモンドが行うという、カリーへのスイッチをさせないことを徹底したウォリアーズ相手に全く通用せず、それがあったからウッドの獲得などでハンドラー依存の戦術から脱却を目指す狙いがあったはずです。それなのにいざシーズンが始まってみればハンドラーへの依存度は減るどころか増しています。そりゃ一人抜けたのに同じオフェンスしてるんだから当たり前です。
ディンウィディ|FREQ%:25.9% PPP:0.99
ドンチッチ |FREQ%:23.8% PPP:1.11
上の数字は選手の得点におけるアイソの割合と、その得点効率についてです。割合に関してはディンウィディがリーグ2位、ドンチッチが3位の多さです。ドンチッチくらい得点効率が良ければまあまだある程度は許容できますが、右に倣えでディンウィディまでやってしまっているのが問題です。これがシーズン序盤によく言われていた「マブスはドンチッチがいないとリーグ最下位レベルのチーム」という状況を引き起こしてしまっていたのです。
またこれと同時にドンチッチのピック&ロールも減少しています。
ドンチッチの全得点におけるピック&ロールハンドラーとしての得点割合
2021-22→2022-23 :44.3→33.9%
4分の3くらいになってしまっています。オフに加えたのはビッグマン二人だったのにも関わらず、です。やっぱり去年のプレーオフで上手くいったイメージを、ロスターが変わったにも関わらず引きずってるように感じてしまいます。
ところが実際チームのオフェンスレーティングはどうかと数字を見てみると、さらに理解するのに混迷を極めることになります
マブスのオフェンスレーティング:115.9(リーグ6位)
重苦しい印象とは違い、実際の効率自体はリーグ全体で見ても普通に良い方です。これにはシーズン中盤のドンチッチのスーパーな活躍の部分が大きく起因していると思われます。
内容は苦しくてもその圧倒的なパフォーマンスのおかげでなんとか勝率5割近くをキープできたことは、しかしながらマブスの根本的な問題の解決を後回しにすることになりました。なんとかチームをギリギリ現状維持はできても、82試合+プレーオフでこの形を続けるのは不可能ですし、これ以上オフェンス力を底上げするのなんてもってのほかです。ハンドラーの個人突破に固執し続ける以上、マブスのオフェンスに未来はありません。
3-2:カイリー・マジック
カイリーのトレード後、ドンチッチが欠場の中、エースとしてチームを引っ張ったのは2試合。たったの2試合ですがマブスファンに強烈なインパクトを与えたのは記憶に新しいです。早いボールプッシュからテンポの良いパス回し、オフボールでも味方のためにスクリーンをかける献身性、THJ、ブロックなどの調子のいいシューターがいたらそこに積極的にアシストし、チームに流れを引き寄せようという姿勢、チームが停滞した、ここぞという場面で決めてくれる必殺の個人技と、加入後たった2試合で、単調だったマブスのオフェンスに多彩さをもたらしてくれました。
カイリー加入後2試合のチームの平均アシスト数:30
シーズン平均が22.9なのを考慮すると、見違えるようにボールが回っていることが分かります。カイリーのもたらした新しい風はドンチッチのダムダムスローテンポバスケを見続けていた我々にとっては新鮮すぎて、ドリアン、ディンを失って意気消沈していたマブスファンの心をあっという間につかんでいきました。
しかしこの形は長くは続きませんでした。ドンチッチが戻ってきてからは徐々にまたハンドラー依存の元の形に戻り、あの華麗なボールムーブは鳴りを潜めてしまいました。折角停滞感のあったオフェンスに新たな形が生まれる兆しがあったのだから、復帰後のドンチッチがもっとカイリーに合わせに行く姿勢を見せてほしかったなー、と思っちゃいますし、もしあの形が続いていれば…という後悔はぬぐえません。ただまあシーズン終盤に加入した選手を中心に、チーム戦術をガラッと変えるというのはなかなか難しいということはもちろん理解できます。
しかしよくよく考えてみてください。シーズン開幕前の課題として、「ハンドラーの突破以外のオプションの開拓」というのは確かにあったはずです。もしその意識をもっと強くもってシーズン序盤で取り組めていれば、カイリーのもたらした新しい形は、既存のマブスオフェンスにスムーズに取り入れられたのではないでしょうか。ここでも去年の成功に拘る姿勢が悪さをしています。スモール体制にしたのは所詮シーズン終盤の30試合+プレーオフのものです。これと全く同じように82試合できると考えるのは、流石に楽観的過ぎたのではないでしょうか。
4章:ディフェンスでの失敗
4-1:昨季の強みのおさらい
ディフェンス面ではどうでしょう。自分の周りでは「去年のプレーオフを見て対策されたせいでもう通用しなくなった」という声をよく聞きましたが、具体的にどう対策されたのか自分では分かっていませんでした。なので今回それについてもっと深掘りしていきたいと思います。
昨季の終盤からプレーオフにかけてのマブスのディフェンスの強さは、相手のドライブレーンを閉めるようなポジショニングと、抜かれても次のヘルプが用意されているという機動力を生かしたローテーションにありました。
2021-22シーズンのマブスのディフェンス
DEFRTG:109.1(7位)
BLK:4.0(28位) STL:6.7(29位) Deflection:11.8(29位)
相手のチームのEFG%:52.1%(9位)
ブロックやディフレクション(相手の保持するボールに触る)など直接ボールを取りに行く回数は少ないものの、素早いローテーションで相手にプレッシャーをかけ続け、相手のシュート成功率を抑えることで、昨季のディフェンスは成功しました。
4-2:今シーズンの変化
それを踏まえた上で、今シーズンはどうディフェンスが弱体化してしまったか見ていきましょう。
①ブロックの衰え
昨シーズンのスモールラインナップのディフェンスの要だったブロック。プレーオフでは平均出場時間39.3分とシボドーもびっくりなくらい酷使されていましたが、それだけマブスディフェンスにとっては欠かせない存在で、ブッカーやクリスポールを抑えることに大きく貢献してくれました。
しかし今シーズンはそんなブロックに衰えが見え始めます。実はウォリアーズとのシリーズでも露呈した弱点ではありましたが、スピードのあるガードにとにかくブチ抜かれる場面が目立ちました。今シーズンはウィングディフェンダーの相方であるドリアンの欠場もあり、彼にかかる負担はさらに大きくなってしまい、ますますパフォーマンスが悪くなってしまいました。
ブロックのオンコート/オフコート時のチームのディフェンスレーティングの比較
2021‐22:106.7/109.0
2022-23:116.5/112.7
昨シーズンはブロックがいないと2.3下がってしまったディフェンスレーティングが、今シーズンはブロックがいると3.8下がってしまっています。32歳という年齢もあり、正直もうスタメンで長時間出し続けるには厳しいということが露呈してしまいました。
②プレッシャー強度の低下
キャッチ&シュートの被成功率
2021-22のEFG%:51.8%(5位)
2022-23のEFG%:55.2%(18位)
ブロックやディフレクションなどのボールに直接関わる系のディフェンススタッツは昨シーズンと変わらないのに、相手のシュート成功率は上がってしまっています。試合を見ているとシンプルにローテーションの速度やプレッシャーのかけ方が昨シーズンに比べて弱くなっていて、結果的にワードオープンで外のシュートを打たせることにつながっているように感じます。
特にそれが目立ったのはドンチッチです。もともとディフェンス時にボールウォッチャーになりがちなところがありましたが、今シーズンはさらにその弱点に磨きがかかり、マークマンをすぐ見失い、特に複雑なパス回しとかではなく、シンプルなワンパスで打たれまくるシーンが目立ちました。
ドンチッチのディフェンスについては↑の動画の説明が分かりやすいです。簡単にまとめると、「IQが高く体格もいいので、ディフェンスのポテンシャルはあるが、集中力や努力の振れ幅が大きく良いパフォーマンスが長続きしない」というのがドンチッチのディフェンスの特徴です。まさに今シーズンはその集中力と努力の部分が明らかに良くなかったですね。自身が語っていたように、バスケ以外の面で抱えていたフラストレーションがコート上のパフォーマンスにそのまま響いているように感じます。
また地味なディフェンス悪化の原因として考えられるのが、相手に与えたフリースローの数です。
2021-2022:15.8本→2022-2033:19.5本
3.7点分の得点の差分が生まれています。これがなければ7位のサンズと同じくらいのレーティングになるので、なかなか見過ごせません。ファールはハイライトなどではなかなか分かりずらい部分なので、スタッツを見るまで気づきませんでした。今シーズンは怪我の多いシーズンであったので個々にかかる負担が強く、それがディフェンス面でジワジワと響いた結果、どうしてもファールで止めに行く場面が増えてしまったのかもしれません。
③月別で見るディフェンスの変化
今シーズンのディフェンス力はずっと一定だったわけではありません。シーズンの中での変化を知るために、レーティングを月別に分けて見てみましょう
ディフェンス・レーティングの変化
10月→110.0 11月→110.0 12月→115.9 1月→119.1
2月→117.2 3月→117.6 4月→121.5
10月、11月の110.0という数字は今年の他のチームでいうと2位BOSの110.6以上の数字なので、この時はまだディフェンスの強度は保てていたといえるでしょう。
12月に入って、ドリアン、マキシら守備の要が相次いで離脱します。これによって一気にディフェンス力が落ちてしまいましたが、そこで半ば怪我の功名のような形でスタメンになったのがウッドです。12月のウッドのディフェンスレーティングは114.7とチーム平均より良い数字を叩き出しており、これが後になって重要になってくるので覚えておいてください。
1月はそのウッドが7試合、ドリアンが5試合、クリバーに至っては全試合欠場することになり、この時期のディフェンスは最悪でした。まあこればっかりは仕方がない部分の大きいですね。
2月は引き続きクリバーがほぼ全試合欠場。ウッドが怪我から戻ってきますが、なぜか出場時間は復帰前に比べて大幅に下がってしまいました。そしてドリアンのトレードでチームディフェンスの要を失います。こうした要因もあって、やはり依然としてディフェンスは苦しいままです。
3月は待望のクリバーの復帰。しかしそれでもディフェンスは依然として上向かず、昨シーズン作りあげた強固なディフェンスは、結局復活の兆しを見せることなくシーズンを終えることになります。
こうして数字を見てみると、印象以上に怪我の影響が大きかったんだと感じます。それと同時に、後半になるにつれて悪くなっているのを見ると、昨シーズン後半にできていたものを82試合続けるということが、いかに難しいことかを感じさせられます。
4-2:「ディフェンスがダメだから負けた」は本当か
ここまでオフェンス面、ディフェンス面の両方について深掘りしてきました。ここで、もう一度攻守のレーティングに立ち返ってみましょう。
マブスのレーティング
オフェンス:115.9(リーグ6位)
ディフェンス:116.1(リーグ25位)
この数字をみて普通に考えたら「オフェンスは普通にいいから、やっぱりディフェンスがこれだけ低かったのがダメだったんだね」となると思いますし、ディフェンスに改善の余地があるのは上記の通りです。
しかしドンチッチ・カイリーというリーグ最高クラスのハンドラーに加えて、オフェンス面ではやれないことがないくらいの多彩なビッグマンであるウッドを抱えながら、「普通にいい」くらいのオフェンスで本当によかったのでしょうか?守備の要のドリアンを放出し、カイリーを取った時から守備面の弱体化にはある程度目をつぶる覚悟はあったはずです。
キングスのレーティング
オフェンス:118.6(リーグ1位)
ディフェンス:116.1(リーグ25位)
それを実現できたチームが同じシーズンにいたのだから、尚更そう思ってしまいます。ディフェンスレーティングはマブスとほぼ同じなのに、かたや西3位の好成績、かたやプレーインにすら入れないチーム。こうも明暗が分かれてしまうと、いかに「振り切る」ということが大事かということを感じずにはいられません。
5章:迷将・ジェイソンキッド
今シーズン多くのマブスファンを困惑させ、イライラさせ、最終的には絶望の淵に追い込んだ張本人ことジェイソン・キッドさんの登場です。数々の迷采配を振り返っていきましょう。
5-1:理解不能な選手起用~ライトとニリキナ編
開幕直後にカンパッソ、ケンバとコロコロ控えガードをいじった後、白羽の矢がたったのは2wayのマッキンリーライトでした。オフェンスは粗削りですが、ディフェンス面でハッスルしてくれるライトを起用したことは、オフェンシブな控えガードで失敗した結果の選択としては一応納得いきます。しかしよく考えてください。ディフェンシブなガードを起用するなら、うってつけの選手がいるじゃないですか。そう、昨プレーオフでブッカーを一番抑えた、CF出場の影の立役者、ニリキナです。昨シーズンのレギュラーシーズンもキッドは彼を限定的な起用にとどめましたが、今シーズンも結局それは変わりませんでした。いったい彼の何がそんなに気に入らないんですかね。
で、実際二人の数字がどんなもんだったか比較してみましょう。
レーティング比較
ライト |OFFRTG:102.7 DFFRTG:117.6 NETRTG:-14.9
ニリキナ|OFFRTG:113.5 DFFRTG:108.4 NETRTG:+5.8
…やばくないすかこの数字?ネット・オフェンス・レーティングはチームワースト、売りだったはずのディフェンスもチーム平均以下です。試合を見てると、とにかく無策にドライブに突っ込んで何も生まれない場面が多く、しかもボール保持時間が長いので彼がいる時間は常に停滞感があったように感じます。正直ライトは実力がまだ足らないうちに謎にキッドに気に入られてしまったばっかりに批判の場に立たされてしまったかわいそうな立場にいるので、あんまり彼のことを責めるのはやめましょう。ただこの数字を見て、ライトを優先し、ここまでレーティングのいいニリキナを47試合の出場に留めるというのは、納得しろといっても無茶な話です。
5-2:理解不能な選手起用~ウッドとクリバー編
全体通して見れば大失敗だった今シーズンですが、良い時期が全くなかったわけではありません。12月の中盤から年明け直後に7連勝があり、上昇の兆しは確実にありました。その際の大きなポイントとして、ドリアンやクリバーの離脱に伴って、ウッドがスタートしていたことです。スタメンウッドは上手くいっていたといえるでしょう。ところがキッドはそんなの知るかといわんばかりにウッドが怪我から復帰後は何もなかったようにベンチ出場に戻すどころか、出場時間は大幅に減ってしまいました。上手くいった部分を最大化できればよかったのですが、昨シーズンの形にこだわり過ぎた結果、その僅かな光も闇に葬り去ることになってしまったのです。もはやただウッドのことが嫌いだったとしか思えないですね。
じゃあ実際ウッドのディフェンスはどうだったのか、レーティングを見てみましょう。
ウッドのディフェンスレーティングの変化
オールスター前:114.5
オールスター後:123.8
こうしてみると後半から大きく数字を落としていることが分かります。では今度はウッドがスタメン時のスタッツを見てみましょう。この時期は守護神としての才能が一番開花しており、ブロックを量産していました。
ウッドがスタメン時(16試合)のディフェンス・スタッツ
ウッドがディフェンス時の相手のリング周りのFG%:51.7%
この数字はロペス(50.2%)やケスラー(51.5%)といった守護神タイプと近く、数字上でも確かにゴール下の守備に貢献していたと捉えることができます。
ではどうしてシーズン通して見るとレーティングが悪くなってしまうのでしょうか。この謎を紐解くために、ウッドがコンテストしたシュートの種類についてのスタメン時とシーズン平均とで比較してみましょう。
コンテストしたシュート本数
シーズン平均…2PT:6.5 3PT:1.9
スタメン時 …2PT:8.4 3PT:1.5
スタメン時には2Pの数は増加し、3Pは減っています。これはスタメン時はセンターとしてプレーし、ゴール下の守備に注力していたことで、良い結果を出せていたといえるのではないでしょうか。
ここで重要となってくるのが怪我で離脱していたクリバーの復帰です。同じビッグマンの彼が復帰したことで、ウッドの出場時間は減ることになりましたが、もう一つの変化はウッドが守るポジションの変化です。ホーネッツ戦のJT・ソーの得点シーンを例に見てみましょう。
クリバーとウッドが同時に出ている時間帯、センターのマークウィリアムズをクリバーが守り、パワーフォワードのソーをウッドが守っており、ソーは積極的にスリーを打っています。スタメン時に見せたウッドのゴール下での守備力を活かすのならば、2人のマークマンは逆であるべきです。クリバーはポジションに拘らず守れるのが強みであるので、それならばクリバーに外のディフェンスをさせてもいいはずです。この試合に限らずウッドが外を守らされる場面はスタメン期間以外ではかなり目立ちました。結局キッドはウッドのスタメン時に出した結果を無視し、去年からいたクリバーを妄信していることが透けて見えます。これも、昨シーズンの形に拘り過ぎて、戦力を活かすことを考えないキッドの浅い考えが表れています。
そして復帰後のクリバーは明らかに不調でした。にも拘わらずキッドはクリバーを妄信しました。クリバーが復帰した3月中のスタッツが以下のようになります。同時期のウッドと比較してみましょう。
3月のクリバーとウッドの比較
クリバー…26.6分 5.5点 FG:35.4% 3P:31.6% OFFRTG:112.6 DFFRTG:122.0
ウッド …21.7分 13.8点 FG:50.0% 3P:37.5% OFFRTG:118.4 DFFRTG:124.7
3月のマブスのディフェンシブレーティングは117.6なので、クリバーもウッドもディフェンスに貢献できてはいません(しかもウッドは苦手な外を守らされている)。一方オフェンス面では自信を失っているクリバーに対して、ウッドは効率よく稼いでいます。にもかかわらず出場時間はクリバーの方が5分も多い。流石に納得できません。
確かにウッドは万能なディフェンダーではありませんし、相手の外のシュートへのチェックは甘いです。しかしゴール下に限定すれば力を発揮できることは、スタメン期間に証明されており、何よりオフェンス面での万能性は、短所を補って余りあるものだと思っています。選手の短所を隠して長所を最大化する、これこそがコーチの役割のはずです。怪我の功名で見つけたウッドの強みを活かすことができず、結局去年の良かった形に固執する。流石インタビューで「I just watching」とか言ってしまうコーチです。
5-3:アンタイムリーなタイムアウトの連発
連続得点されても取らない、ひたすら待つ。かと思えばこちらが流れに乗っているタイミングでなぜかタイムアウトを取る。もう何を考えてるのか分かりません。恐らくキッドの目には我々が見ているバスケットボールとは全く違うものが見えてるのでしょう
Jason Kidd had a timeout to use and did nothing…. pic.twitter.com/7J33Dc7JxJ
— Zay✨ (@ZAYYYTHEGOAT) February 14, 2023
5-4:クラッチタイムの弱さ
これらの要因が全て重なった結果がこれです。マブスは今シーズン、クラッチタイムでリーグ最多の29敗を喫しています。特にその中でも逆転負けの多さが目立ちました。22点差を逆転されたサンズとの開幕戦から始まり、残り4分15点差から追いつかれたサンダー戦、プレーオフ争いのライバルに対して27点差を逆転されたレイカーズ戦、その他二桁点差の逆転くらいならあり過ぎて、数え始めればきりがありません。必要な役割や選手の調子を考えない選手起用、流れを切ることを知らないタイムアウト、タイムアウト明けに何の策もなくルカに預けるだけのATO…これらの要素をつなぎ合わせれば、クラッチタイムに弱いのはむしろ必然とも言えるでしょう。
6章:来季の展望
本来ならば今シーズンの反省を踏まえてじゃあドラフト、FA,戦術はどうなっていくか考えるところですが、そんな気は起きません。なぜならコーチはジェイソンキッドであり、そしてその立場を確実なものにしてくれる、マークキューバンがオーナーがだからです。
「a fish rots from the head」という言葉があります。直訳すると、「魚は頭から腐る」、つまり「組織がダメになるのはトップの人間がダメだから」という意味です。なんて今のマブスにピッタリの言葉でしょうか。トップがダメな限り、誰を補強しようと考えても無駄です。無駄な希望なんか持たず、現状から目を背け、他の楽しみを見つけてさっさとこの泥沼から逃げ出しましょう。
7章:最後に
こうやって夢も希望もない形で締めてしまうほど流石に僕もサディストではありません。最後に一つだけ希望の見える話をしたいと思います。その話とはバックスを優勝に導いたブーデンホルツァーについての話です。ホークス2年目でリーグ屈指のチームオフェンスを展開するチームを作ったと思ったら、バックスでは既存のオフェンスを5アウトにガラッと変え、ヤニスの力を最大化することに成功しました。そんなブーデンですが、プレーオフの成績はというとなかなかさえず、その度に言われたのが、「対応力の低さ」です。ホークスでは「パッシング重視のチームオフェンス」バックスでは「ヤニスを最大化する5アウトと強固なドロップディフェンス」という強力な軸となる戦術をもたらしましたが、プレーオフでは逆にその強力な軸に拘りすぎてしまい、特にバックス時代はヤニスへの「壁」を築くディフェンスとキックアウトからのスリーを徹底したラプターズ、ヒートに同じような負け方をしてしまい、2年連続リーグ1位にも関わらずファイナルに進めませんでした。特にヒートへの敗戦後はその負け方の悪さから、ブーデンホルツァー解任の声が飛び交っていたように記憶しています。
そんな「プレーオフで勝てない」、「対応力のない」という評価を受け続けていたブーデンホルツァーですが、バックス運営陣は彼を見限ることはしませんでした。迎えた2020-21シーズン、勝率は前2年と比べて落ちてしまいましたが、その代わりにプレーオフで使える手札を用意すべく、シーズン中から色々な戦略を試していたそうです(どこかの記事の情報だったはずですが、忘れちゃったので分かりません…、知っている方いたらリンク送ってほしいです)。そして迎えたファイナルで、迎えるのはブッカー・クリポ要するサンズ。開幕2試合を落としますが、その敗戦の後、バックス、そしてブーデンホルツァーは過去2年の課題への解答を示しました。ヤニスをロールマンとして使う回数を増やす、そしてさらにロペスの起用時間を抑え、ヤニスをセンター起用し、スイッチで対応するという方針に切り替えることで、スリーやミッドレンジを得意とするサンズのオフェンスを抑えることに成功、悲願の優勝を果たしました。外野から「対応力のない」と言われ続けたコーチが、対応力を身に着けて優勝したことは、キッドを抱える我々マブスファンにとって励みになるのではないでしょうか。
コート上で自分自身を表現する選手と違って、外野の僕たちはコーチのことをせいぜい起用方法やインタビューの内容からしか評価することはできません。今はクソコーチだのハゲだの言われてるキッドですが、選手とのコミュニケーションは誰よりも取っているかもしれませんし、そもそも戦術を考えるのはACの仕事だったかもしれません。キッドの一挙手一投足にイライラしないためにも、自分の見えない部分は都合のいい解釈をして、来季コーチとして成長したらいいなくらいの気持ちでいきましょう。
そんくらいの気楽な感じでやってきたい(じゃないとやってられない)ですね。来季の開幕までは4か月もあります。4か月はみんな横並び、去年だってマブスのプレーイン脱落も、キングスのプレーオフ進出も、予想してた人はいなかったはずです。どうせ期待値は底辺まで下がったのだから、来年は気楽な気持ちで迎えましょうということで、今回の分析を終わりにします。こんな長い文章を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。